株高・賃上げなのに豊かさを感じない本当の理由——円安・インフレ・少子高齢化の中で、子どもたちの未来を考える

名目賃金は上がり株価は最高値を更新しているのに、生活は楽にならない。その矛盾の正体をコストプッシュインフレ・円安・国債金利・少子高齢化の4つで解剖し、子育て世代として今何を考えるべきかを整理します。

「株価が最高値を更新した」「今年も賃上げ率が高水準だった」——ニュースで流れるこういった言葉と、スーパーで感じる物価の重さは、なぜこんなにも噛み合わないのか。

子育て中の30〜40代として、この矛盾を漠然と感じながら過ごしている方は多いと思います。私もその一人です。「景気が良い」と言われているらしいのに、子どもの教育費は増え、食費は増え、光熱費は増え続ける。どこか根本的なところで、語られている経済の話と自分の生活がズレている感覚。

今日はその「ズレ」の正体を解剖した上で、少子高齢化・財政・インフレという重いテーマの中で、子どもたちの未来にどんな光を見出せるかを、一緒に考えてみたいと思います。答えは出ないかもしれませんが、それでも「考え続けること」が親世代にできる最低限のことだと思うので。


なぜ「株高・賃上げ」なのに豊かさを感じないのか

まずここから整理しましょう。

株高の正体

日経平均株価が高値を更新しているのは、主に2つの理由からです。一つは円安による企業の名目利益の増大。トヨタをはじめとする輸出企業は、海外で稼いだドルやユーロを円に換えるとき、円安なほど円建ての利益が膨らみます。実態として売れる量が変わらなくても、数字の上では「好業績」になります。

もう一つは外国人投資家の資金流入。円安=日本株が割安になるため、海外からの買いが入りやすい構造です。株価が上がっているのは、日本の実体経済が元気だからではなく、「円が安い」という事実の反映でもあります。

国内に資産(株や投資信託)を多く持つ人にとっては資産価値が増えていますが、給与所得だけで生活する人にとっては、株高は「遠い世界の話」です。NISAで投資を続けることの意味はここにあります——資産を持つ側に立てるかどうかで、同じ経済環境でも受ける恩恵が全く変わります。

賃上げの正体

2025〜26年の春闘は確かに高水準の賃上げが続きました。しかし問題は実質賃金です。名目賃金(数字上の給与)が3%上がっても、物価が4%上がれば実質的には1%の減収です。日本では長らく実質賃金のマイナスが続いており、「賃上げしているのに豊かにならない」という現象が起きています。


「コストプッシュインフレ」という目に見えない増税

今の日本のインフレは、需要が旺盛で物が売れているから物価が上がる「ディマンドプル型」ではありません。エネルギー価格の高騰、輸入原材料費の上昇、そして円安によって輸入コストが膨らむ「コストプッシュ型」です。

この違いは根本的です。ディマンドプル型のインフレは景気が良い証拠で、給与も上がりやすく、人々は多少物価が上がっても恩恵を感じやすい。一方コストプッシュ型は、景気とは関係なく企業のコストが上がり、それが価格に転嫁される。「物が売れているわけでも、豊かになったわけでもないのに、値段だけが上がる」という状態です。

特に中小企業は深刻です。コストが上がっても大企業のように価格転嫁しきれず、賃金を上げながら原材料費の高騰にも耐えなければならない。内需依存の中小企業や年金生活者にとって、コストプッシュインフレは「目に見えない増税」に他なりません。


国債金利の上昇が意味すること

2026年1月、10年物国債の利回りが一時2.38%に達しました。1999年以来、約27年ぶりの水準です。三井住友DSアセットマネジメントの予測では、長期金利は2031年度には3%近傍まで上昇する可能性があります。

これが家計と社会に与える影響は複数あります。

住宅ローンへの影響

変動金利型の住宅ローンは政策金利に、固定金利型は長期国債金利に連動します。金利が上昇すれば、新規に住宅を購入する人の借入コストが増すだけでなく、すでに変動金利で借りている人の返済額が増加します。

財政への影響——これが最も重い問題

日本の国債残高は2026年時点で約1,100兆円。金利が1%上昇するたびに、利払い費は数兆円単位で増加します。現在の日本の国家予算における国債費(元利払い)の割合はすでに24%前後に達しており、社会保障・教育・防衛といった他の支出を圧迫する「財政の硬直化」が進んでいます。

これは遠い将来の話ではありません。金利が上がれば上がるほど、国が教育や子育て支援に使えるお金は減っていく可能性があります。「子どもたちへの投資を増やす」という政策の実現可能性に直接関わる問題です。

以前整理した通り、将来不安の正体の一つはこの「財政の持続可能性」への不信感です。年金も社会保障も、国債金利の動向と無縁ではありません。


少子高齢化の「数学的な現実」

2040年、日本の人口は約1億1,284万人に減少し、65歳以上が全人口の 35% を占める見通しです(内閣府)。現役1人が高齢者をほぼ1人支える計算になります。

この「数学的な現実」が社会保障に与える影響は単純です。支える人が減り、支えられる人が増えれば、現役世代の負担は増す。あるいは給付水準が下がる。どちらかです。「2030年代に入るまでが少子化反転のラストチャンス」とされますが、いま子育て中の我々の子ども世代は、その帰結を正面から引き受ける世代になります。

また、少子高齢化は税収基盤の縮小も意味します。働く人が減れば所得税・社会保険料の収入が減り、消費が減れば消費税収も減る。「財政を健全化しながら社会保障も維持し、子育て支援も充実させる」という三方良しの政策は、数字の上では極めて難しい綱渡りです。


では、子どもたちの未来に希望はあるのか

ここまで暗い話が続きましたが、「だから絶望」とは思っていません。むしろ、以下のような要素に希望の根拠を見出しています。

AI・テクノロジーによる生産性の逆転

人口が減っても、1人あたりの生産性が劇的に上がれば、社会の総産出量は維持・拡大できます。製造業・農業・医療・介護など、AIとロボットが「人手不足」を補完し始めている領域は急速に広がっています。前の記事でも書きましたが、AIが仕事を奪う一方で、人間が高付加価値な仕事に集中できる社会への転換が進んでいます。

子どもたちの世代が「AIを使いこなす側」に立てれば、少子化という頭数の問題を、生産性で補う可能性があります。次期学習指導要領が探究学習とAIリテラシーを前面に出しているのも、この現実を見越してのことです。

「小さくても豊かな国」というモデル

人口が多いことが豊かさの絶対条件ではありません。スイス・デンマーク・フィンランドのような人口1,000万人以下の国が、1人あたりGDPで世界トップ水準を誇っています。人口が減るなかで、1人ひとりが高い生産性を持ち、高い付加価値の産業に従事する社会設計ができれば、「縮小しながら豊かな日本」はあり得ます。

親世代が「負担をかけない」老後を設計すること

これは直接的に子ども世代への希望につながります。親が老後資産を自立して持てれば、子どもへの経済的依存が減ります。NISAを活用した長期積立や、資産形成を今から真剣に進めることは、「子どもへの最大の贈り物」になり得ます。子どもが30〜40代になったとき、親の介護費用や生活費を援助しなくていい——それだけで、子ども世代の家計の余裕は大きく変わります。


親として今できること

「大きな構造に自分一人ではどうにもならない」という無力感は、正直あります。でもマクロ経済の流れは変えられなくても、ミクロ(自分の家計・子どもへの関わり方)は変えられます。

私が考える「今できること」は3つです。

① 資産を「円だけ」に置かない:インフレ・円安リスクへの対応として、全世界株式インデックスへの積立投資は引き続き有効です。円の実質的な価値が下がっても、グローバルな経済成長の恩恵を受けられます。

② 子どもに「国に依存しすぎない力」をつける:英語力・デジタルリテラシー・探究力——日本国内の雇用市場だけに依存せず、グローバルに活躍できる能力は、どんな経済環境でも価値を持ちます。

③ 自分たちの老後を「子どもの重荷にしない」設計を今から:ライフプランを数字で把握し、必要な資産を今から積み上げておくこと。それが、子どもたちへの最も具体的な「愛情の形」だと思っています。


まとめ

  • 株高・賃上げが豊かさに直結しない理由:円安による名目利益の膨張と、コストプッシュ型インフレの同時進行。実質賃金はマイナス圏で推移
  • コストプッシュインフレは景気と無関係に物価を押し上げる「見えない増税」。内需・中小・年金生活者が最も打撃を受ける
  • 国債金利の上昇は利払い費の増大→財政の硬直化→子育て・教育への公的投資余力の縮小という連鎖リスクをはらむ
  • 少子高齢化の数学は現役世代の負担増と給付水準の低下を同時に示唆する
  • それでも希望の根拠はある:AI・テクノロジーによる生産性逆転、「小さくても豊かな国」モデル、そして親世代が自立した老後を設計することで子ども世代の負担を減らすこと
  • 今できること:資産の分散・子どもへのグローバルスキル投資・自分たちの老後の自立的設計

「日本の未来は暗い」という結論にするつもりはありません。ただ、現実を正確に把握した上で行動することと、目を背けて漠然と不安を抱えることは、10年後・20年後に大きな差を生みます。子育て中の今だからこそ、経済の構造を少しでも理解しておくことに意味があると思っています。