「高値だから一度売って待とう」——NISAで積立を淡々と続けるべき理由を数字で整理する

毎年3ヶ月だけ積立を止めると30年後に613万円の差。10年後に売却して3年待機すると447万円の差。非課税枠のルールがどう変わっても、積立を淡々と続けることが有利な理由をシミュレーションで整理します。

株価が「気持ち悪いくらい上がっている」と感じる局面が続いています。NISAでインデックス積立をしている人にとって、「一度利確して、また下がったら買い戻そう」という気持ちが生まれるのは自然なことです。

でもこの判断、NISAの制度ルールとは別次元で、数字で見ると損をする可能性が非常に高い。

「非課税枠が回復するかどうか」「枠の使い方のルールがどう変わるか」——そういった制度上の議論とは切り離して、今日は「淡々と積み立て続けること」が有利な理由をシミュレーションで整理します。


積立を少し止めるだけで、思った以上の差が出る

まず、3つのシナリオを比較します。いずれも**月3万円・年率5%**で計算しています。

  • A(継続):30年間ひたすら積立を続ける
  • B(毎年3ヶ月停止):毎年9ヶ月は積立し、3ヶ月は「様子見」で停止する
  • C(10年後に売却・3年待機):10年間積立後に全額を一度売却し、現金で3年間様子を見る。その後、現金を再投資しながら積立を再開する

結果を5年ごとに並べます。

経過年数 A. ひたすら継続 B. 毎年3ヶ月停止 C. 10年後3年待機
5年後 204万円 154万円 204万円
10年後 466万円 352万円 466万円
13年後 657万円 496万円 466万円(待機中)
15年後 802万円 605万円 590万円
20年後 1,233万円 931万円 962万円
25年後 1,787万円 1,348万円 1,438万円
30年後 2,497万円 1,884万円 2,050万円
継続との差 ▲613万円 ▲447万円

毎年わずか3ヶ月だけ止めるだけで、30年後に613万円の差。10年後に一度売って3年待機しただけで447万円の差。どちらも、月3万円の積立額(30年分の元本は1,080万円)と比べてもはっきりわかる規模の損失です。


なぜ「少し止める」だけでこんなに差が開くのか

答えは複利の連続性にあります。

ドルコスト平均法(毎月一定額を積立する方法)の効果は、「長期間・継続して買い続けること」で最大化されます。株価が高いときは少ない口数を買い、安いときに多くの口数を自動的に買う。この「安値で多く買う」効果は、積立を止めた月には発生しません。

さらに、すでに育った資産が「市場で働いている時間」が短くなるほど、複利の力が弱まります。

シナリオCで特に顕著なのが「13年後は466万円(待機中)」という数字です。Aが同時点で657万円まで育っているのに対して、Cは3年間ずっと466万円のまま。差の191万円は、この3年間に市場で働けなかった466万円の機会損失です。「高値で売って安値で買い戻す」という計画がうまくいったとしても、その待機期間中に資産が全く増えないコストがかかっています。


「高値で売って、安値で買い戻す」は実際にはできない

「それでも絶好のタイミングで売り買いできれば得では?」——この考え方には、もう一つ大きな落とし穴があります。市場のタイミングを正確に予測することは、世界最高の専門家でも非常に難しいという事実です。

J.P. Morganの調査(2021年)では、米国株(S&P500)の過去30年間(1991〜2020年)で、最もリターンが高かった「20日間」だけを逃した投資家の年平均リターンは6.4%から0.1%まで急落しています。

投資スタイル 年平均リターン
30年間保有し続けた 10.7%
最良の10日を逃した 5.5%
最良の20日を逃した 2.0%
最良の30日を逃した -0.4%
最良の40日を逃した -2.8%

(注:S&P500インデックス、1991〜2020年。J.P. Morgan Asset Management, 2021より)

「怖い」と思って一時的に売却している間に、市場が急回復するケースが歴史的に繰り返されています。しかも、大きな上昇日は下落と隣り合わせで来ることが多いため、「下落時に逃げて、また戻ったら入る」という行動は特に失敗しやすいパターンです。

積立が止まっているのはほんの数ヶ月でも、そこに回復の大きな波が来てしまえば、取り返すことができません。


「怖い」と感じたときの正しい対処

株価が大きく上がっているときに不安を感じるのは自然です。ただその「怖い」という感覚への対処として、売却は最後の手段です。まず確認すべきことが2つあります。

① 今NISAにある資産は、10年以上使わないお金か

ライフプランシミュレーターなどで整理すると、「この資産はいつ使う予定のお金か」が見えてきます。10年以上先に使う資産なら、短期の上下動は気にする必要がありません。もし5年以内に必要なお金がNISAに入っているなら、それは売却して現金化を検討すべきです——でもそれは「高値だから」ではなく「近く使うから」という理由です。

② 今の資産配分が自分のリスク許容度に合っているか

「夜眠れないほど怖い」と感じるなら、そもそも株式比率が高すぎる可能性があります。その場合に有効なのは、売却よりも今後の積立額を少し下げることや、債券・バランス型への変更です。毎月3万円が不安なら2万円にする——ゼロにするのではなく、続けられる金額に調整することが大切です。


それでも売却を検討してよいケース

「絶対に売るな」ということではありません。以下の状況では、売却は合理的な判断です。

近い将来に使う予定が出てきた場合:教育費・住宅購入資金など、5年以内に必要なお金であれば下落リスクを取り続けるより現金化が合理的です。

リバランスのために一部売却する場合:株式比率が上がりすぎて当初の目標配分から大きくずれたとき、比率の是正目的での部分売却は有効です。「高値だから」ではなく「比率の是正」が目的であることが重要です。

投資商品自体を乗り換える場合:より低コストの商品への乗り換えや、長期的に優れた選択肢への変更は、メリットを試算した上で判断する価値があります。

これらに当てはまらない「なんとなく高値だから」「下がりそうで怖い」という感覚による売却は、複利の連続性を断ち切るリスクが高くなります。


まとめ

  • 毎年3ヶ月だけ停止するだけで、30年後に613万円の差が生まれる
  • 10年後に売却・3年待機・再開しても、30年後に447万円の差が生まれる
  • この差は非課税枠のルールとは無関係に生じる。積立を止めること・売って待機することは、複利の恩恵を自ら手放す行為
  • 市場タイミングを捉えることは極めて困難:最良の20日を逃すだけで年率6.4%が0.1%に急落(J.P. Morgan調査)
  • 怖いときの対処は「売る」ではなく、①使途の確認 ②積立額の調整 ③資産配分の見直し
  • 売っていいケースは「近く使う予定が出た」「リバランス」「商品乗り換え」——「高値だから」は理由にならない

「高値でも安値でも関係なく、淡々と積み立て続ける」——これはシンプルに聞こえますが、数字で見ると最も確実に複利を味方にする方法です。

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