「子ども3人産めば大学がタダになる」——そんな話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
半分は本当で、半分は落とし穴があります。
今回は、子ども3人以上の「多子世帯」が受け取れる国の支援を全部並べて、金額を計算してみました。大学無償化が実際に始まっているのかどうかのファクトチェックも含めてお伝えします。
我が家は現在子ども2人ですが、「3人目をどうするか」という話を夫婦でするたびに、この制度設計が気になってきます。今日はその整理をできるだけ正確な数字でしてみます。
大学無償化は本当に実現しているのか——ファクトチェック
結論からいうと、2025年度(令和7年度)から実施されています。
正式名称は「多子世帯への授業料等無償化」で、文部科学省が高等教育の修学支援新制度として実施しています。対象は「扶養する子どもが3人以上いる世帯」で、所得制限はありません。大阪大学・早稲田大学など主要な大学を含む、大学・短期大学・専門学校の95%以上が対象校として参加しています(令和8年現在)。
支援の上限額は次の通りです。
| 進学先 | 授業料支援(年間・上限) | 入学金支援(上限) | 4年間の最大支援額 |
|---|---|---|---|
| 国立大学 | 54万円 | 28万円 | 244万円 |
| 私立大学 | 70万円 | 26万円 | 306万円 |
これは確かに大きな支援です。ただし、後で触れる通り「誰でも必ずフルに受けられる」わけではありません。
児童手当だけで、3人分は1,116万円になる
大学無償化の話をする前に、まず「当たり前の制度」として流してしまいがちな児童手当の総額を確認しておきます。
2024年10月の制度改正により、児童手当は以下のように拡充されました。
- 0〜2歳:月15,000円
- 3歳〜高校生(18歳):月10,000円
- 第3子以降:年齢にかかわらず月30,000円
- 所得制限:撤廃
第3子の「年齢にかかわらず月3万円」が大きいです。18歳まで受け取り続けた場合の総額を計算すると——
| 子ども | 月額 | 18年間の総額 |
|---|---|---|
| 第1子 | 0〜2歳1.5万、3歳〜1万 | 234万円 |
| 第2子 | 同上 | 234万円 |
| 第3子 | 年齢問わず3万 | 648万円 |
| 3人合計 | 1,116万円 |
2人だけの場合(234万×2)と比べると、第3子を産むことで児童手当が648万円増えます。
「子ども手当をNISAで運用していたら」というシミュレーションになりますが、仮に月3万円を18年間・年率5%で積立運用した場合、新NISAの積立戦略の記事でも整理したように複利効果で1,000万円を超える資産になる可能性があります。現金で使い切るか、将来に備えて運用するかで最終的な価値は大きく変わります。
高校無償化——2026年度から所得制限が撤廃
続いて、高校の就学支援金制度も2026年度から変わっています。
これまで年収910万円以上の世帯は対象外でしたが、2026年度から所得制限が完全撤廃されました。支援の上限額は次の通りです。
| 進学先 | 就学支援金(年間・上限) | 3年間の最大支援額 |
|---|---|---|
| 公立高校 | 11.88万円 | 35.6万円 |
| 私立高校 | 45.7万円 | 137.1万円 |
子ども3人が全員私立高校に進学した場合、3人分で最大411万円の支援となります。私立高校の実際の授業料は年間80〜120万円程度かかることが多く、就学支援金で全額はカバーしきれませんが、負担が大幅に軽減されることは確かです。
支援を全部足したらいくらになるか
3つの制度を組み合わせて、条件が整った場合の「総支援額」を概算すると次のようになります。
| 制度 | 公立高校・国立大学の場合 | 私立高校・私立大学の場合 |
|---|---|---|
| 児童手当(3人分) | 1,116万円 | 1,116万円 |
| 高校無償化(3人分) | 107万円 | 411万円 |
| 大学無償化(3人分・条件付き) | 732万円 | 918万円 |
| 合計(概算) | 約1,955万円 | 約2,445万円 |
(注:大学無償化の合計は「3人全員がフルに受けられた場合」の上限額。後述の落とし穴に注意)
この数字を見ると、「3人産んだほうが国から手厚く支援される」という構造がはっきりと見えてきます。ただし、大学無償化の欄には重要な注意書きがあります。
大学無償化の最大の落とし穴——「同時扶養3人」という条件
ここが最も重要なポイントです。
多子世帯の大学無償化を受けるには、「3人以上の子どもを同時に扶養していること」が条件です。
つまり、長男が大学を卒業して就職し、扶養から外れた時点で「扶養する子どもは2人」となり、次男・三男がまだ在学中であっても支援の対象外になります。
具体例で整理します。子どもが3歳差の場合(長男2010年生、次男2013年生、三男2016年生):
| 年度 | 状況 | 大学無償化の適用 |
|---|---|---|
| 2029年 | 長男が大学入学、次男・三男は在学or在校 | 長男 ✅(3人扶養) |
| 2030〜2032年 | 長男大学2〜4年、次男も大学生に | 長男・次男 ✅ |
| 2033年 | 長男が就職・扶養外れ、三男が大学入学 | 次男・三男 ❌(2人扶養になるため) |
このケースでは、三男は「長男がいなくなった後に大学生になる」ため、大学無償化の恩恵をほとんど受けられない可能性があります。
子どもの年齢差が広いほど、「同時扶養3人」の期間が短くなります。子どもを何年差で産むかというライフプランが、大学無償化の恩恵の大きさに直結するのです。
それでも「第3子を産む経済的合理性」はあるか
大学無償化の条件付きという現実を踏まえたうえで、総合的に考えてみます。
第3子を産む場合に確実に増える支援:
- 児童手当の第3子加算 → 648万円(確実、条件なし)
- 高校就学支援金(第3子分)→ 公立36万〜私立137万円(条件なし)
この2つだけで680〜785万円が増えます。これは第1子・第2子の児童手当合計(468万円)を上回ります。
さらに「大学無償化の条件が整う期間」が一定期間あれば、そこに上乗せで数百万円の支援が加わります。
一方で、第3子を育てることに伴うコスト(食費・習い事・保育料・教育費の増加分)は当然かかります。教育費の実態データについてはこちらの記事でも整理しましたが、子ども1人あたりの教育費(幼稚園〜大学)は平均で1,000〜1,500万円規模と言われています。
制度の支援があっても、すべてが賄えるわけではありません。「制度を最大活用しながら、不足分は資産形成でカバーする」という設計が現実的です。
こどもNISAと組み合わせると何が変わるか
こどもNISAの活用戦略についての記事でも整理しましたが、2027年から新設予定のこどもNISAを活用すると、国から受け取る児童手当をそのまま非課税で運用する仕組みが作れます。
第3子の児童手当(月3万円)をNISAで18年間・年率5%で運用した場合:
- 元本: 648万円(月3万×18年)
- 運用後の試算: 約1,090万円
子ども1人分の教育費をほぼカバーできる水準の資産が、国からの給付を使って形成できる計算です。「もらった現金をすぐ使う」のか「将来の教育費として運用する」のかで、最終的な家計への効果がまったく変わります。
まとめ——大学無償化は実施済み、ただし「同時扶養3人」の条件を忘れずに
- 大学無償化は2025年度から実施済み。所得制限なし。国立244万、私立306万円が上限(4年間)
- 最大の落とし穴は「同時扶養3人」が条件。上の子が就職すると扶養から外れ、下の子が無償化の対象外になるケースが多い。子どもの年齢差が大きいほど不利
- 児童手当だけで3人分は1,116万円。第3子は月3万円×18年で648万円——この部分は条件なしで確実に受け取れる
- 高校無償化も2026年度から所得制限撤廃。私立進学なら年最大45.7万円の支援
- 支援総額は条件次第で2,000万円規模になるが、それでも教育費の全額はカバーできないため、自分でも準備する必要がある
- 対策:児童手当(特に第3子の月3万円)をそのまま使い切らず、こどもNISA等で運用することで将来の教育費に変換できる
「3人産めばすべてタダ」という単純な話ではありませんが、「第3子を産むことで受け取れる支援は、第1子・第2子より明確に大きい」という構造は制度設計に織り込まれています。ライフプランとして子どもの人数を考える際、制度の実態を正確に理解した上で判断したいところです。